家具修復について
家具製造の素材に対するこだわり 主役は木部にあり
家具の場合は、基になる木材についてのこだわりが修復にも反映されます。
現在はウォークインクローゼットにひっそりと設置される事も多くなったのですが、かつて、婚礼タンスは今よりも大きな存在感を持っておりました。単なる衣装入れではなく、品格をも求められる特殊な花形的存在だったのです。この婚礼家具についてお話ししようと思います。
婚礼タンスの扉の中央を飾る鏡板と呼ばれる部材は、実際に鏡がはめ込まれている事もありますが、板貼りであっても鏡板と呼ばれます。タンスの顔になるたいへん重要な部分です。
この部分には突き板と呼ばれる、銘木を薄くスライスした板が貼られている事が多いです。これにより美しく同じ木目で統一された扉を複数作る事ができます。
突き板は高価なものです。ある製造工場で、あまり広くない倉庫に、ある程度の原木が保管されていて、「いくらすると思う?」と尋ねられましたが、判らずにいると「〇億円になるんだよ」と教えてくれ、驚いたことがあります。
突き板加工する原木は、どんな木でも良いわけではなく、突き板専用に見極めた木を選んで仕入れします。「今では輸入する事が多いので現地まで出向いて、美しい木目が採れそうなものを探してくるのだ。」との事でした。
しかし、苦労して仕入れた原木も、加工してみないと実際の木目は判らず、加工してみたら使えなかった。と言うことも珍しくないそうです。歩留まりは3割ほどだそうで、殆どが日の目を見ない運命だとか。
そこまでして美しさにこだわった木を使っているのですから、施す塗装も、より木目が美しく際立つようにと工夫されています。銘木にペンキを塗っては意味がないのです。
木が主役であり、塗装は引き立て役なのです。
修復の過程でも、木部の状態は一番気にされる事項です。同じ木目の扉を新たに作成することは、天然木では不可能だからです。
傷の状態を修復職人さんに伝える時、「突き板は大丈夫です。」と伝えると、「ああそれなら何とかなるね。」という感じです。仮に突き板を破るようなキズであっても何とかしてしまうのが腕の良い職人さんの証ですが、「やってみなけりゃ、直るか判らないね。何日かかるかもやってみないと判らない。」という返事が返ってきたりします。そんな時は「ぜひお願いします」とお願いしてしまうのが一番です。その技量を知っている場合の話ですが。
完成したタンスは何事もなかったように完璧な仕上がりで感動します。
どうやって直しているかというと、それは秘密だったりします。しかしながら、家具は木部が命であるという事から、木部の修復に心血が注がれ、それさえ完成すれば、塗装は引き立て役。塗装設備も充実した環境なので、もう大丈夫(実際は非常に難しい)。ということは想像に難くありません。